14をあげてから一ヶ月ぶりとか…。
つたない上に遅いなんて、本当に申し訳ないです。
あと一つ書いて終わりになります。
次は絶対一週間以内にあげます。
注意は1を参照でお願いします。
光の視点でお送りしています。
よろしければ追記よりどうぞ。
ピョンと台から飛び降りたクイックが、いきなりふらついて台に手をついて驚いた。転ばないように腕をつかんで支えてやると、大丈夫だと俺の手を軽く叩く。
「どうしたんだ?」
静かに腕から手をはなすと、クイックは何か違和感を感じるのか胸をなでた。
「動力炉の替えなんて、あったのか?」
俺は内心で舌打ちした。本格的な戦闘はまだ予定されていないなか、こまごました外付けのパーツや消耗の激しい部位のパーツ以外は予備が作られていない。つまり、クイックの中でクイックを動かしている動力炉は他機のために作られた物だ。
「違う奴のを借りてるから、クイックのじゃない。だからあんまり激しく動くな。」
メモリを保存しない状況下での強制終了から、他機の動力炉を突っこむという荒技で再起動させたクイックに新たな負荷をかけるわけにはいかない。だから他機が誰であるかはふせた。自分の胸を見下ろしながら、クイックはぽつりとつぶやいた。
「俺のこと動かせる動力炉の持ち主って誰だ?」
すっとあげられたアイカメラは、俺のことを射抜くように見つめてきた。勘の鋭い兄機だとは知っている。うまく話しをそらす方向に持っていかないといけない。
「誰だったかな。俺はまだ起きてなかったから、知らないな。」
「ウソだ。本当のことを言え。」
矢のような言葉が返ってきて、俺は一瞬たじろいだ。嘘だと断じる根拠など、クイックは持っていないのに。気圧されてはいけないと笑顔をつくった。
「嘘じゃない。そう思う根拠はなんなんだ?」
「根拠は、ない。でも、この動力炉の持ち主に心当たりがある。」
胸に手をあてながら、クイックははっきりとそう言った。落ち着いた表情で、俺のことをにらむでもなく見てくるクイックになら、全てを話してもいいのではないかと思えてくる。
「ちなみに、その心当たりの奴だった場合はどうするんだ?」
「俺の新しい動力炉ができるまで、動けないけど勘弁してくれって謝りに行く。」
少し暗い顔で笑いながら肩をすくめるクイック。そんな笑い方をするとは、俺のデータにはなかった。一抹の不安がよぎったが、俺はメタルへの通信回線を開いた。30分ほどの
押し問答の末、クイックが『大丈夫だから』とメタルを説得し、渋々ながら了解させた。
「この扉の向こうに、コピーエレキマンガいる。」
目的のラボまで連れてきて、始めてその名前を口にした。どこへともなく、暴走して走り去るのを予防するためだ。
「そうか。」
静かに言ったクイックの声にも表情にも、揺らぎは全くない。安堵して扉を開くと、処置台の上に横たわるコピーエレキマンが目に飛び込んでくる。一瞬の間を置いて、クイックはゆっくりと処置台に歩み寄った。クイックに続いてコピーエレキマンのかたわらに立つと、不思議な感じがした。胸はきちんと装甲で覆われているのが、その下に何もないと知っているせいかぽっかりと穴が空いている錯覚にとらわれる。ちらりとクイックに視線をやると、我が身に穴が空いたかのような痛ましい表情をしていた。
「大丈夫か?」
「あぁ。」
短く答え、コピーエレキマンの胸にそっと触れる。その指先はわずかに震えているように見えた。大丈夫と気丈に振る舞うプライドの高い兄に、
それ以上何も言うことができなくて、ラボの隅に置いてあるイスを取りに行った。
「立ちっぱなしじゃ、体に障るぞ。」
イスを手に戻ると、クイックは微動だにしなかった。アイカメラにも、先ほどのような俺に刺さるのではないかと思えるほどの強い光がどこにもない。
「クイック!?」
直立不動でフリーズしたクイックを揺り動かすと、キュウッと起動音がする。自由を取り戻したクイックは、崩れるようにイスに座り込んだ。口から音を立てて排気し、とても苦しそうだ。
「戻ろう。また来ればいいだろう?また倒れるぞ?」
自分でも驚くほどの強い語調でそう言うと、クイックは首を横に振った。戻らないと決めてしまえばてこでも動かないであろうことは、今までの言動で容易に想像できた。それでも俺は、クイックに安静にして欲しい。
「どうしてだ?お前自身の機体を痛めつけてまで、ここにいる意味はないだろう?」
コピーエレキマンは眠っているのだから、と続けようとするとクイックの言葉がそれをさえぎった。
「意味は無いかも知れない。でもコピーエレキが起きるまで、こうしてたいんだ。」
力なく投げ出されたコピーエレキマンの手を取ると、両手でしっかりと握りしめる。そのまま祈るように目をつぶると、誰に言うでもなく、小さな声でささやいた。
「俺きっと、こいつのこと好きなんだ。こいつは多分、ずっと前から俺のこと好きでいてくれたんだと思う。でも俺はそういう気持ちよく分からなかった。それでもこいつは待ってくれてたんだと思う。俺が好きって気持ちを知るまで。こいつがこんな風になって、はじめて分かった。メタルやクラッシュだって怪我してるはずなのに、こいつに一番に会いたいって思っちまったんだ。兄弟も大切で好きだけど、こいつも大切だし、好きなんだ。」
独白のような告白で、クイックがコピーエレキに感じている『好き』の深さがよくわかった。だからといって、怪我をしているクイックに無理させる訳にはいかない。クイックにとってそれをするだけの価値がコピーエレキマンにあっても、起きたばかりの俺にとっては兄であるクイックの方が大事なのだ。どうにか説得しようと考えを巡らせていると、どこかで低く、何かの電源が入る音がした。