メタルの話し。ほのぼの。
マスクについての妄想・ねつ造含みます。
苦手な方はご注意を。
よろしければ追記よりどうぞ。
『お前は、笑えないのか?』
生まれたばかりの私に、博士が言った。
『この顔が、笑うということではないのですか?』
生まれたばかりの私は、博士に笑って見せる。
博士は少し黙って、二体目の製作図を机の端に寄せた。そして何やら新しい紙に製図をする。しばらく待てと言って、隣の作業室にはいっていった。
しばらくとは、どのくらいかと思いながら待つ。10分と23秒して博士が戻ってくる。手に、不思議な形の鉄板を持って。
『顔をかせ』
これの意味は頭部をもいで渡すことではない。学習済みだ、大丈夫。この場合は、どうすればいいのだろうか。曖昧というか、人間独特というか、ストレートな字面からは読み取れない意味に戸惑うことが多い。とりあえず、腰を屈めて顔を博士の作業しやすい位置に下げる。
『そういうことだ』
口の端を引き上げる博士に、ほっと胸を撫でおろした。博士は、私が悩んでいるのをちゃんとわかっている。それで待っていてくれる。そのことは私の感情プログラムをすごく落ち着かせた。かぽっ、と口にさっきの鉄板が当てられた。
『苦しくないか?』
はい、と答える声がくぐもる。少し違和感を感じるが、苦しくはない。かぱっと鉄板がはずされた。
『後でヘルメットにつくようにする』
うなずくと、頭をあげていいと言われる。曲げていた腰を伸ばした。元の位置に戻った頭の中に、少しの疑問が生まれる。
『なぜ、それをしなくてはいけないのでしょうか?』
良い質問だ、とまた口の端を引き上げる。鉄板を机に置いて、私に向き直って博士が言う。
『お前さんの感情と表情のプログラムはまだ、未発達のようだ。だから二つが上手く繋がっておらん。いつか、感情の発達と共に表情も豊かになるだろう。』
椅子に腰掛け、また私に視線を注ぐ。わずかに口の端をあげながら、またゆっくりとしゃべりだす。
『それまでは、できるはずのことが出来ないことにイライラするはずだ。だから、これを口に当てておけ。気休め程度にはなるだろうから。』
私はうなずいたが、なにかが胸につかえた気がした。博士は微笑んだまま、私を見つめている。質問があるなら言いなさいと、目が優しくうながしている。
『感情にふさわしい表情は、どうやったらつくれるでしょうか?』
言うと、博士は私の手をとった。シワの多い手が、グッと力をこめて私の手を握る。そして、静かにでもはっきり言ったのだ。
「つくらなくても、溢れてくると。」
目の前にいる七人の兄弟たちは、じっとしたまま動かない。その真剣さがおかしくて、愛しい。
「おしまいだ。」
そう言ってやると、みんなの緊張がとけたのがわかる。クラッシュが、ドリルをふりながらしゃべりだした。
「あれ、じゃあもう口あてしなくていいんじゃない?」
最初に、なんでメタルは口あてしてんの?と言ったクラッシュが首をひねった。フラッシュもうなずきながら言葉を付け加える。
「今は普通に笑えてると思うぞ?」
「だいぶ長いことしてたせいか、ないと気持ち悪い。」
ふーんとクラッシュが納得する。他の兄弟も納得したようだった。
ただ、バブルとエアーだけは内心で少しだけ笑っていた。メタルは笑えるようになってから、しばらく口あてをしていない時期があった。でも、すぐに口あてを着け直してしまったのだ。その時言ったメタルの言葉を、二人は覚えている。
『無いと不安だから、お守りだと思って着けておく。』
メタル自身も言ったことを覚えている。ただ、弱音をはいたみたいで長男として嫌だったから、もう二度言わないと心に誓った。そんな長男が可愛いと思って、二人は内緒で笑ったのだった。