エアーの話し。ほのぼの。
クイック・クラッシュ・フラッシュのちび化があります。
苦手な方はご注意ください。
あと、やや長めです。
よろしければ追記よりどうぞ。
自分も、こんなに小さい頃があったのか。赤橙青の50センチ位の機体が、てちてちと歩き回っている。
このチビらは、今調整中の新機体の試作機体だ。赤がクイックマン、橙はクラッシュマン、青はフラッシュマンという名前である。それぞれてんでばらばらのところから、てんでばらばらの物を持ってきた。クイックは紙、クラッシュはクレヨン、フラッシュは新聞紙と言った具合である。クイックとクラッシュは一緒に遊ぶのかも知れないが、フラッシュは仲間はずれにされているように見える。
そういう時、どうしてやればいいのだろうか。メタルやバブルは、それぞれにスタンスを持ってこのチビたちに接していた。積極的に介入していくメタル、来るものは拒まない静観のバブル。自分はどうするのがベストなのだ。面倒みのいい長兄と手のかからない三男にはさまれ、いまだかつて考えたことのない難題に頭が重くなる。そうこうする内に、クイックが床に紙を敷こうとした。それをフラッシュが制する。
「床がよごれるから、新聞紙しこう。」
賢い子だ。今、ものすごく感動を覚えた。起動されてから日の浅いチビたちの中で、一番下の子とは思えない。
「そうだな!はやくしいてくれよ。」
ニコッと笑ってクイックが促し、頷いてフラッシュが新聞紙を広げた。その上に三枚の白い紙が広げられる。黙ってことの成り行きを見ていたクラッシュが、クレヨンの蓋を開けようとした。
「わっ!」
色とりどりのクレヨンが、紙の上にぶちまけられる。しゅんとするクラッシュにクイックが明るく言った。
「どうせ描いてるうちにこうなるんだから、気にするなよ!」
「うん。」
ストレートなクイックの言葉に安心したのか、元気よくクラッシュは頷いた。クイックは裏表の無い、さっぱりした性格でよきリーダーなんだなと思った。
何やら話し合ったあと、三人はそれぞれクレヨンを手にとり紙に絵を描き始めた。青いクレヨンから黒いクレヨンにもちかえ、はたとクラッシュの手が止まった。ちらりと俺を見る。なんだろうかと思っていると、クラッシュがおもむろに立ち上がった。クレヨン片手に、てちてちとこっちに歩いてくる。
最初に会った時、クラッシュは俺を見るなり大泣きしたのだ。俺の体がでかくて、目付きが悪いせいかと思ったが、特殊武器のせいだった。クラッシュの特殊武器と俺の特殊武器の相性の悪さが、人見知りするクラッシュをさらに不安にさせたらしい。以来なんとなく避けられている気がする。だから、クラッシュから俺に近づいて来るのが、なんか嬉しい。
足元までよって来ると、ジーッと俺のことを見上げてきた。
「何か用かクラッシュ?」
目線を外さずにクラッシュがううんと答える。
「用はないけど、一つきいていいか?」
真っ直ぐの視線受け止めて、あぁと言ってやる。
「エアーの口はどこにあるんだ?」
「…ついていない。」
実際はある。人型の様な口はついていないと思うが、プロペラの奥にエネルギー補充用の孔があいている。クラッシュが目をぱちくりした。
「じゃあ、どうやってキスするんだ?」
さっき入れたE缶を噴きそうになった。なんでこのちび助はキスなんて言葉を知っているんだ?って、考えるまでもない。犯人はメタルだ、そうに決まっている!わなわな震えていると、クラッシュが無邪気に話を続ける。
「あのな、メタルがバブルにしてたんだ。バブルにきいたんだ、好きな人にはしたいと思うしされたいと思うんだって!」
なんだかわやわやしてて分かりにくいが、バブルよお前もか…!がっくりしていると、クラッシュが脚をよじ登ってきた。ちょんと膝の上に乗って、きらきらと俺を見上げてくる。
「おれな、エアー好きだぞ!だからキスしたい!」
一瞬どきりとしたが、子供の言う好きだと思うと、ほっこり暖かい気持ちになる。頭を撫でてやりながら、聞いてみる。
「お前は、俺が怖かったんじゃないのか?」
きょとんと首をかしげてクラッシュが答える。
「こわい、のかな?でもさ!エアーはもし、自分のニガテな武器もった弟いたら嫌いになるのか?」
八体造るつもりでいるらしい我が父は、多分俺の苦手な武器を持った弟を造るだろう。その時にならなければ分からないが、嫌いにならない確信みたいなものが胸にある。
「嫌いにならないな。」
満足そうにクラッシュが頷いた。
「バブルがね、エアーはニガテでも嫌いにならないって言ったんだ。だからおれも、ニガテだけど嫌いじゃないんだぞ!」
武器の相性の得手、苦手は各自の性格や思いとは違うから。とバブルは続けたに違いない。チビ助には飲み込みづらかったみたいであるが、バブルに感謝だ。おかげで、かわいい弟との交流が持てた。
「いいか、クラッシュ?キスをする好きには色々あるんだ。」
クラッシュの独特のヘルメットの上に?マークがとんでいる。
「家族として好きなら、額にキスするといい。それと、安売りしてはいけないぞ。」
分かったのか分かっていないのか分からないが、クラッシュはうんと頷いた。そしてまたじーっと俺の顔を見る。
「キスしていいか?」
真剣な顔がかわいい。
「あぁ、構わないぞ。」
抱き上げてやると、俺の額、コアにキスしようとして、失敗した。ヘルメットのバイザーが、カンッといって俺の額に直撃する。
「ごめん!いたくないか?大丈夫か!」
あわわと額を撫でるクラッシュに、大丈夫だと笑ってやる。すると胸を撫で下ろして、ニコッと笑った。
「あ!クラッシュばっかりずるい!俺もだっこ!」
そう言ってクイックが走りよってくる。後からフラッシュも走ってきた。クラッシュは、少し不器用だけど人の間の壁を壊すことのできる子なのだと思う。げんに、俺はもうチビたちと接することに不安は感じていないのだから。