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十五夜なんてとっくの昔に終わってますよね…。
いきなりネットに繋がらなくなってしまいまして
更新ができなくなっていました。
九月の一、二週目は私事が多くてできなかったから
張り切っていたのに…!

十五夜前夜の続きです。
光速の要素を含んでいます。ほのかに鋼泡も含んでいます。
なんでも大丈夫という方、よろしければ追記よりどうぞ。



 

電気を消した部屋の窓際は、ほのかに明るい。

「曇ってるけど、時々月が見えるね。」

窓辺にイスを並べて、それぞれが空を見上げているとバブルが言った。曇っているといっても、夜空が透けて見えるほどの薄い雲が漂っているだけだ。雲が切れなくても、月がこうこうと輝いているのがよく分かる。

「雲があるけど、これはこれできれいだな。」

今日もさりげなくクイックの隣の席を確保したフラッシュがそう呟いた。お盆の上に器用にE缶をつんで持ってきたメタルがうなずく。

「そうだね。曇ってる月も、それはそれとして楽しんだものだったらしいよ。」

一番近くに座っていたクラッシュに一缶渡しながら、目を細めて空を見た。渡されたE缶を隣に流して、次を待っていたクラッシュがメタルの手をつつく。メタルは我に返ったように、ごめんごめんと謝りながらまた一つずつ手渡し始めた。

「ススキっていうの見てみたかったなぁ。」

E缶をもらって手の中で遊ばせながらヒートが言う。その隣で申し訳なさそうにウッドが笑った。

「ごめんね。ススキって調べてみたんだけど、すぐには手に入らなさそうだったんだ。育てたこともないし。」

「どうせなら摘んでくればよかったな。いっぱい生えてた。」

ウッドに大丈夫と微笑みながら、クイックが冗談ぽく軽い口調で言う。隣でカメラをもって来ればよかったかも知れないと思っていたフラッシュが、少し意地悪そうに返した。

「つんでも持ってくる前に無くなっちまうだろ、きっと。」

「そんなことねぇよ!ものすごく気をつけてゆっくり持ってくれば多分持ってこれる!」

全員の手にE缶が渡ったことを確認して、メタルが空いているイスに腰掛けながらつぶやいた。

「いちゃつくのは後でにしてほしいな。」

「いちゃついてなんていないだろう!」

クイックが慌ててそう叫んだ。公然の事実と化しているとはいえ、改めてそれを指摘されると気恥ずかしくてたまらないらしかった。隣でフラッシュが唇をくっと引き結び、ゆっくりと笑みの形にする。

「俺は、いちゃついてるつもりだったけどな。」

フラッシュの不意打ち的な言葉に、クイックがしどろもどろになにか言おうと口をぱくぱくしている。

「言うねぇ。」

「こら、茶化すんじゃない。」

エアーがそうたしなめると、バブルは気の抜けた返事でそれに応えた。普段意識してないことを意識させられたせいか、クイックはまだ若干挙動不審で、アイカメラが上下左右せわしなく動いている。

「大丈夫かクイック?」

きょどきょどしているクイックに、フラッシュは余裕のある笑みでそう聞いた。いつもと違い頼もしげなフラッシュを直視できず、顔をうつむける。すると、フラッシュのE缶を握る大きな手が、小刻みに震えているのが見えた。

「いてぇっ!?」

クイックの口から言葉がでるより、握り拳がフラッシュを直撃する方が速かった。クイック的にはぽかっぐらいのごく軽い一撃のつもりだったのだが、フラッシュとその他大勢にはドゴンとかドガンくらいの重さの一撃だった。フラッシュの握っていたE缶が床を転がる。低くうめいているフラッシュに、クイックは早口にまくしたてた。

「似合わねぇことしてんじゃねぇよ!バカ!」

突然火がついたように怒りだしたクイックを、鎮めようと口を開きかけたウッドをヒートが制す。

「犬も食わないってやつだから、ほっとけばいいよ。」

「い、犬が食べない?どういう意味なの?」

「痴情のもつれってやつだよ。」

メタルがニコニコ笑いながら答えると、今度はエアーが怒りだした。

「ウッドに変なことを吹き込むな!」

はーいと表面上いい子の返事をする二人に、それ以上何も言えなくてエアーははがみした。外野がそんなこんなしているうちに、クイックとフラッシュは修羅場の峠は通り越したらしくお互い見つめあっている。

「お前が無理してかっこつけなくたってな、俺はお前のいいとこたくさん知ってるぞ!」

「…そうだよな、みんながいる前でどうかしてたな。」

仲直りついでに急速にいい雰囲気を醸し出す二人に、バブルがわざと大きなため息をついた。ヒートが二人を指さしてウッドに言う。

「あれが犬も喰わないって奴だよ、すぐ仲直りするから相手するだけ無駄ってこと。」

「まぁ、二人は夫婦ではないけどね。」

「そうなんだ。」

二人の物知りに感心したようにうなずくウッドを横目で見ながら、エアーはウッドまで二人のようになったらどうしようかと少しだけ心配になっていた。

「あれ、誰かに似てる。」

周りの騒ぎを気にかけながらも、ずっと空を見ていたクラッシュがドリルの先を空に向ける。そこには、雲の間から顔をだしたまん丸の月があった。黄色の丸い月、それで思い出される誰か。

「フラッシュに似てるな!」

「エアーみたい。」

「……。」

嬉しそうに叫ぶクイック、ぽつりと呟くクラッシュ、苦虫をかみつぶしたようなバブル。

「…あえて誰も言わなかったことを言うなよ!」

「そうか?」

「バブル私に言うことがあるんじゃないかい?」

やや傷ついたように叫び返すフラッシュ、どこが似てるんだろうとない首をひねるエアー、不気味なくらいにこやかなメタル。

「言うことなんかないよ、自意識過剰なんじゃないの?」

メタルの胸についたコアカバーをふと思い出し、それを当人に見透かされたことが腹立たしいバブルは乱暴にE缶のふたを開けた。

「エアーのおでこの、月みたい。」

「あぁ、これか。」

クラッシュが見つめる額のコアカバーを指でさすりながら、納得したようにうなずいた。そんな上の兄達を見て、ウッドはくすりと笑う。それに気づいてヒートがどうしたのとたずねると、ウッドは笑ったまま答えた。

「みんなで月見るのって、楽しいなって思ったんだ。」

「そうかな?騒がしいよ、いつも通り。」

主役の月そっちのけの騒がしさに眉をひそめながらも、ヒートも内心、兄弟が月を見るという目的であらためて一同に会しておしゃべりしたりするのが、新鮮で楽しいと思っている。その夜は月が南の空を過ぎて西の空にかかるまで、なんといこともない話しなんかをして八人で過ごした。

 

 

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