明日十五夜なので書いてみました。
たまっているものもすぐにのせるようにします。
あきれながら待っていてくださるなら幸いです。
2ボスの面々です。少し光速要素があります。
よろしければ追記よりどうぞ。
「明日って満月だな。」
談話室のテーブルに頬杖をついて、呟くようにクイックが言った。いつも通りなぜか集まっている兄弟達は、クイックのつぶやきに驚いたように目をぱちぱちする。さりげなくクイックの隣の席でパソコンをいじっていたフラッシュが、いち早く我に返るとクイックを見つめた。
「それが、どうしたんだ?」
毎月毎月、月は欠けて満ちる。そんな当たり前のことを、なぜこのタイミングで呟くのだろう?フラッシュだけでなく、その場にいる兄弟は皆不思議に思っていた。
「明日の満月は特別なんだって!ジュウゴヤって言うんだってさ。」
「ジュウゴヤ…?」
フラッシュは手元のパソコンで調べようとしたが、どんな綴りだか分からずにやめた。
「ジュウゴヤってなに?」
クラッシュが首をかしげながらそうクイックにたずねた。クイックはうんと、小さくうなずいてから口を開く。
「満月見ながら、団子食べる行事なんだって。」
「それ、どういう意味がある行事なの?」
一部のD.W.NとK.G.Nから、悪魔の手帳と言われている会計簿を静かに閉じて、今度はバブルが聞いた。
「意味?」
「クリスマスだったら、イエス・キリストの誕生日でしょう。そういうのがあるのかなって。」
意味、ともう一度うなりそのまま固まってしまったクイックに今回、メタルの助け船は出てこなかった。
「メタルも知らないの?」
見かねたのか、ウッドがメタルに話しの水を向ける。メタルは軽く肩をすくめると、自信満々に答えた。
「知っているよ!でももうちょっとクイックの困った顔を見ていたいなぁ、なんてうそです…。」
隣に座っていたエアーと、はす向かいの席のバブルと、クイック本人ににらまれて、メタルの言葉の語尾はフェードアウトした。気怠げに腕を組み、つまらなそうな調子でバブルがため息をついた。
「なんだかそのため息、すごく傷つくんだけど。」
「メタルが一方的に悪いように思うがな。」
エアーにもそうばっさり斬られて、メタルは目に見えてしゅんとうなだれた。
「メタルは意味知ってるんでしょ?どういういわれがあるの?」
ウッドが困ったように笑いながら、メタルに話しの続きをうながす。とたんにぱぁっと明るくなり、嬉しそうに語り出した。
「日本の行事でね、秋に満月を鑑賞することをいうんだよ。秋にとれた栗とかお芋とかお供えして、ススキを飾るんだ。仲秋の名月っていうこともあるようだよ。」
すらすらと異国の行事を説明するメタルは、少し言葉をきると一同を見渡した。説明においてかれてる弟がいないことを確かめて、また言葉を紡いだ。
「ちなみにジュウゴヤって、数字の十五に夜って書くんだよ。」
「あれっ?」
今まで大人しくみんなの話を聞いていたヒートが、小さく声をあげた。メタルが優しく微笑むと、なんだいとヒートに顔を向けた。
「明日って22日だよ?なんで15の夜なんだろ?」
「旧暦っていうのかな、太陽暦じゃない暦では15日の夜だったらしいよ。」
ふーんと、ヒートがまだ納得はしていないように返事をした。フラッシュは場が一段落したのを確認して、クイックに話しを振る。
「それにしても、クイックは日本の行事が好きだな。」
「ん、そうか?」
「俺もそう思う。」
クラッシュが首をかくかく鳴らしながらうなずいた。他の兄弟もそう思っているらしく、誰からもそんなことないなどの言葉がでない。そんな中でバブルが言った。
「七夕も企画してくれたしね。」
「そうだよね。あの風鈴、たまに揺らしてるよ。」
バブルの言葉を受けて、ヒートが楽しそうに笑った。そんな弟達の姿をほほえましく思いながら、何とも犯罪者のような顔でメタルは眺めて悦に入っている。そんな長男を無かったことにしようかと拳をにぎにぎしながら、エアーはふと明日の天気を思い出した。
「明日は曇りか、雨かもしれないぞ?」
「そうなのか!?」
びっくりしたようにエアーを見て、クイックは残念そうに頭をたれた。机に突っ伏しながら、もそもそと何事か呟いた。
「すげぇ綺麗だって聞いたから、みんなで見たかったのになぁ。」
いつでも『みんな』が中心にあるクイックらしい落胆の理由に、他の兄弟達はかわいそうに思うのと同時に少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
「てるてる坊主つるしてみるから、ね?」
「うん、もしかしたら晴れるかもしれないよ!」
ヒートとウッドのはげましに、クラッシュも首が転げ落ちるのではないかと心配になるほど強くうなずいた。他の精神年齢が高い兄弟は特になにも言わないが、気持ちは同じらしくクイックのことを心配そうに見ていた。
「そうだな、俺もつくってつるしとくか!」
クイックが元気を取り戻したところで、自然と解散の流れになった。最後まで談話室に残ったのはフラッシュだった。誰もいない談話室で、ぽそりと低く呟く。
「みんなとじゃなくて、俺はクイックとだけ見たかったな。」
聞かせるべき相手のいない言葉は、むなしくどこかに飛んでいってしまった。面と向かってこれくらいのことが言えないなんて、自分の情けなさに地団駄をふんで談話室を後にした。