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お久しぶりです。
『準備しよう』の続きです。

もっと先に書かなきゃいけない続きがありますよね、
すみません…。

よろしければ追記よりどうぞ。


 

基地のからそう遠くない、入り江のそばの林の端でテントをはるために木槌を動かした。たまに潮風にのって、波の音が聞こえてくる。

「こんなもんか?」

二人並んで寝られるくらいのテントを一応はり終え、隣で荷物をほどいているクイックに聞いてみた。明かり用のライトやE缶が並んでいる横で、ぷうぷうビーチボールに空気を入れているクイックがこっちを見る。空気の弁から口をはなすと、一つ瞬きをした。

「な、なんだおかしいか。」

じーっとテントを見つめたまま、何も喋らないクイックにはったテントをもう一度見直す。すると背中でクイックの嬉しそうな声が上がった。

「すごいな!キャンプって感じがする!」

ビーチボールを抱きかかえたまま、クイックがテントのそばまでやってくる。きらきらと笑うその顔に、少しだけ心が痛んだ。

「ほんとにテントにキャンプでよかったのか?」

呟くようにこぼれた疑問に、クイックがむっと怒ったような顔して俺をにらんだ。ふくらみきっていないビーチボールを、ぎゅっと握りしめる。

「ここまで来てまだそんなこというのか?」

「いや、まぁ…」

結局メタルは耐塩用の費用を半分まけてくれたから、二人分の宿代くらいは手元に残ったのだ。でもクイックはキャンプしたいと言うので、博士にテントを借りて基地からロボットの脚で半日ほどの海辺に来ている。クイックが俺の寂しい懐具合を気にして金のかからないことをしようとしているのではなく、本当にキャンプしたかったのは三日前からうきうきと準備していたからよく分かっている。

「お前遠くに行くの好きそうだから、こんな近場じゃなくてもう少し遠い場所に連れてってやりたかったなって。」

宿代までいらなくなったのだから、行ったことない場所に連れて行く余裕がある。だからなんとかクイックの喜ぶことを自分の手でしたかった。そんな俺にふっと、クイックが呆れたように唇で笑った。

「遠い場所ってどこだ?俺が世界中で行ったことないのは海の底ぐらいだぞ?」

冗談か本当か分からないが、クイックが言うからには本当のことなのだろう。これが本当なのだとしたら、俺のやる気今回大きく空振りしていて滑稽きわまりない。うつうつとした気分になっていると、クイックが軽く額をこづいてきた。

「俺は一人で色んな所行った。走れるようになって、最初に来たのはこの入り江なんだ。」

林の向こう、寄せては返す海を見ながらクイックは静かに語り出す。

「その時すごい綺麗だとおもって、この場所は俺の秘密の場所にするつもりだった。」

潮の香を運ぶ緩やかなか風が吹いた。その風にクイックはまぶたを伏せる。

「でもお前にこの場所を見せたくなったんだ。お前それが嫌か?」

「嫌なわけないだろう!俺そんなこと知らなくて、わざわざクイックが連れてきてくれたのに、その、悪い…。」

お互いに何も言えないまま、立ちすくんでしまった。いつまでも続くかに思われたなんとも気まずい沈黙を、クイックの笑い声が打ち破る。

「お互いのことを大切に思ってんのにケンカするとかばかみたいだなっ!」

たしかにそうだ。自嘲ではなく腹の底から笑っているクイックに、俺もなんだか馬鹿らしくなってきて一緒に笑った。ひとしきり笑って、クイックがビーチボールを投げてくる。

「あー腹いてぇ。空気のこり入れてくれよ。」

「おう。」

受け取って、弁に口をつけようとすると柔らかく風が吹いた。

「…お前が秘密の場所を俺に教えてくれたんだから、俺はお前の行ったことないところに連れて行ってやるよ。」

「へー。まぁ楽しみにしてるよ。」

信じていないようなその口調に、俺は軽く唇を引き上げた。

「じゃあ、今晩はねむれないな。」

海を眺めているクイックの端正な顔がヘルメットと同じくらい赤くなっていた。

 

 

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