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注意は1を参照でお願いします。
複電の視点でお送りします。

よろしければ追記よりどうぞ。


 

クラッシュの戦闘訓練の分空いた時間をもてあましていると、突然エアーから呼び出しをくらった。めずらしい奴からの通信の内容は、我が耳を疑うものだった。

 

惨状というのは見慣れているつもりだった。だが、目の前に広がるありさまに、思わず一歩後ずさりそうになる。訓練場の床に、全身がずたずたにされたクラッシュが転がっていた。そのドリルの先には真っ赤な循環液がこびりついている。倒れたクラッシュと距離を置いて、扉に背を向けてメタルが床にへたりこんでいた。その床は誰のものなのか、循環液が水たまりのようになっている。隣のエアーは何事かを聞き取れない声で呟いている。

「…メタル。」

ひるんでいても始まらない、意を決して訓練場に足を踏み入れる。呼びかけの声に全く反応が返ってこない。一歩進むのにもかなり気力を消耗するような重い空気の中、メタルに手が届きそうな所までやってきた。その時、メタルの背中の向こうに、よく知った脚が投げ出されているのが目に入った。

「…クイック?」

言葉が喉に引っかかって、変な風に震えた。自分の名前を呼ばれても無反応だったメタルが、いきなり何かを抱きかかえるように体を折った。むせびながらしきりとささやきだす。メタルの隣に膝をつくと、メタルの膝に頭をあずけて眠るように目を閉じているクイックが腕越しに見えた。ただ眠っているわけではないことは、赤い装甲にぽっかり空いた黒い穴が教えてくれる。そこから今も、黒い防護スーツをつたって赤い循環液が白い床を染め続けていた。

「っ!?」

まだクイックが製作途中で動けなかった時の映像が脳裏にフラッシュバックした。速く動くために作られたのに、動くことすらままならない美しい機体。動けないクイック、動かないクイック。嫌だ、せっかく動くようになったのに。また、ものも言わない人形のようになってしまうなんて。呆けそうになる俺の耳に、メタルのささやきが聞こえてくる。

「ごめんね、ごめんね、ごめんね…」

いつもやや無理をして弟機の面倒を見て、常に頼れる存在であろうとするメタルがこの有様なのだ。俺が呆けているような場合ではない。メタルのためにも、なによりクイックのためにも。胸に空いた穴が元で強制的にシャットダウンしたのなら、データの破損が心配される。できるだけ速くメンテ室に行って、データの保護をしなくてはいけない。

「エアーっ!!」

扉を振り返りながら叫ぶと、大きな体はそこにはなかった。どこ行ったんだと辺りを見回すと、倒れたクラッシュの様子を見ていた。

「…なんだ?」

だいぶ不安げな声で返事をしながら目を上げる。

「クラッシュの容体はどうだ?」

「大丈夫だ。見た目はひどいが、外部から電源を切られているだけで、起動しようと思えばすぐにでもできる。」

すらすらと報告しながら、クラッシュの体をそっと抱き上げた。

「とりあえずメンテ室にこいつをおいてくる。」

「そうしてくれ。それで、修理の準備をしてついでにバブルを呼んできてくれ。」

一瞬なぜか分からないというような顔をしたが、短く答えて訓練場を出て行った。

「…メタル。」

憔悴しきっているメタルに語りかける。できればメタルの腕からクイックをぶんどってでもメンテ室に連れて行きたかったが、錯乱しているらしいメタルからクイックを無事に引き離せるとは思わない。だから、静かに語りかけた。

「クイックは大丈夫だから、手をはなしてくれ。今すぐメンテ室に運ぶから。」

もう何も聞こえていないのかと思ったメタルが、力なく首を横に振った。細い声で、とぎれとぎれしゃべり出す。

「無理だ、動力炉に大穴が、空いてる。換えのものは、ないんだ。もう、動かない…。」

メタルはうつむきながらクイックの胸に手を置いた。うなだれるメタルの肩を軽くゆすってやる。

「大丈夫だ、博士はまた動力炉くらい作ってくれる。そうだろう?」

「…無理だ!まだ、三体のロボットが作られる予定なのに、クイックの新しい、動力炉を作るほどの資金なんて、ないよ。どこにも…。」

相変わらず言葉はとぎれとぎれだが、受け答えがしっかりしてきた。多少正気を取り戻したらしいメタルに、笑って言ってやる。

「金の心配なんかしなくていい。俺が動力炉は俺がどうにかするから、任せておけ。」

軽く自分の胸を叩いて、大丈夫だと重ねて言った。本当に、と顔を上げてメタルが呟く。「あぁ、だからクイックをメンテ室に連れて行ってやろう?」

ちょっとの間クイックを見つめて、ゆっくりと抱きしめていた腕をほどいた。俺は急いでクイックを抱え上げ、メンテ室に飛ぶように走った。腕の中のクイックは、いつもよりもずしりと重かった。

 

 

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