気づいたら日をまたいでいました…。
すみません。
注意は1に参照でお願いします。
速の視点でお送りします。
よろしければ追記よりどうぞ。
それから数日の間、メンテ室でクラッシュと会っても火薬のにおいはしなかった。クラッシュは与えられた武器を使いこなす前に、戦闘のいろは的なものを教わっているらしい。それを一生懸命やってもうまくできないことに、いらだちを覚えているようだ。もともと多くない口数が、一段と少なくなっている。今もメンテ台の上に座って押し黙っていた。
「明日は休みにしよう。」
メタルの半ば絶対的な指示に、クラッシュは首を横にふった。そのアイカメラは床に向けられていたけれど、どこにも焦点が合っていないようだ。
「…だいじょうぶ、コペを壊したり、しないよ。」
今までなにもしゃべらずにクラッシュに付き添っていたエアーが、やっぱり何も言わずにメタルを見た。やや心配げなその視線を受け止めたメタルは、考えるように目を伏せた。そして沈黙の後、ゆっくりとまぶたを開き、静かに言う。
「クラッシュがコペのことを壊してしまうなんて、思っていないよ。でも、神経回路が少し疲れているみたいだから、大事をとってお休みにしよう。」
なめらかなガラス玉みたいに優しい言葉だ。少し前の俺なら気がつかなかったかも知れないけれど、クラッシュに接するみんなの態度はどこか壊れ物を扱うような優しさがある。よそよそしいわけではない。それでもなにか違和感のようなものを感じる。
「…わかった、明日はおとなしく、してる。」
とぎれとぎれにそう言うと、クラッシュはピョンと台から降りてタカタカと部屋から出て行った。その後を、エアーが慌てたように追いかけていく。その姿を見送って、メタルは少し肩から力を抜いた。
「クラッシュはなにか問題をもってるのか?」
抱いていた疑問を言葉にしてみると、メタルが驚いたように俺を見た。そんな顔をあまり見たことがないので、俺はなんだか居心地が悪くなってくる。
「…どうしてそう思うんだい?」
「どうしてって、みんなの態度とか見てたらそう感じたから…。」
そう、と小さく呟いてメタルは俺から視線をはずし、メンテ用の器具を取り出しはじめた。かたかたと響く金属の音しかしないメンテ室。メタルが答える気配はない。
「あのさ…。」
悪いことを聞いてしまったかと、謝ろうとした矢先、メンテ室の扉が開いた。
「おい、用事ってなんだ?」
わずかにいらついたような声色に、全く怖じ気づいた様子もなくメタルが微笑んだ。
「メンテのお時間ですよ~。」
おどけた明るい声なのに、コピーエレキはびくっと肩を震わせた。今入ってきた扉から、即座に出て行こうとする。
「クイック捕まえて!」
なにが起こったのか一瞬とまどった頭に届いたメタルの言葉通りに体が動いた。がしりとコピーエレキの腕を捕まえる。手甲のついてない腕は、ふにっと柔らかい気がした。
「はなせ!俺は自分でメンテしてるから免除されてる!」
そうなのかと手の力を緩めようとすると、メタルが飛んできてコピーエレキの空いている手を捕まえる。
「定期メンテは来いって言った!なのにすっぽかしただろう!?」
「どこも悪くない!」
「それを決めるのは私だ!」
だだをこねるように、コピーエレキは引き下がらない。
「メンテの翌日はだるいんだぞ、明日クラッシュにバラバラにされてもいいのか?」
「明日クラッシュはお休みです。残念でした!」
なんでそんなに定期メンテを嫌がるのか分からない。でも、メタルにいつまでも元気でいるために受けるものだって聞いたから、コピーエレキにもきちんと受けて欲しい。
「動けなくなってからじゃ、遅いんだぞ!」
自分で思った以上に大きな声がでる。メタルもコピーエレキも、びっくりしたように俺を見た。しばらく二人の視線にさらされて、また居心地が悪くなる。
「…分かった。受ければいいんだろう?」
メタルの腕を軽くはらって、そう吐き捨てるように呟いた。
「照れちゃって。」
「照れてなんかない。」
軽く腕をふられたので、俺は手をはなそうとした。でも、なぜかここから消えてしまうような気がして、手をはなせない。
「クイック?」
俺はだまったまま、コピーエレキをメンテ台まで連れて行く。コピーエレキは素直についてきて、メンテ台の上に腰をおろした。少しだけ視線が合うと、コピーエレキはふっと笑う。
「速いとこ頼む。まだやることが残ってるからな。」
そうメタルに催促するコピーエレキの手を、もう一度だけぎゅっと握ってからはなした。しっかりと感触が残っているのに、やっぱり感情回路のどこかに消えてしまいそうだと不安が残った。