注意は1を参照でお願いします。
話しが前に進んでいない感じがするのですがもう10記事目です…。
複電の視点でお送りします。
よろしければ追記よりどうぞ。
「やっぱり焦げ臭いな…。」
システムのチェックをしていると、さっきクラッシュが起こした爆煙の臭いが鼻につく。軽く体を洗っただけでは落ちない臭いに、自然と眉がよっていく。汚いのが嫌な分けじゃないが、火薬の臭いは好きじゃない。後でちゃんと洗おうと思い、そのためにさっさと仕事を片付けてしまおうと入力ボードに目を落とした。ふと、外で誰かが叫ぶ声が聞こえた、気がする。扉に目をやるのとほぼ同時に、扉が開いた。
「あ!いた!」
俺のことを指さしながら、クイックが笑顔でそう言った。
「かくれんぼしていた覚えはないが?」
「かくれんぼ?」
首をひねるクイックに、知らずに笑みがこぼれた。クラッシュの相手をするようになって、まだそんなに経っていないのに、なんだかずいぶんクイックに会っていない気がする。
「かくれんぼはまぁ、いいとして。なんだ俺に用事か?」
そう水を向けてやると、みるみる顔色が変わっていく。一気に暗くなった表情で俺に駆け寄ってきた。そしてぺたぺたと機体を触りだした。なんの儀式か知らないが、クイックの緑の目があまりに真剣なので、されるがままになっている。しばらくそのぺたぺたが続板後、一段落ついたのかほっとクイックが肩から力を抜いた。
「…で、なんだったんだ?」
「クラッシュがお前のこと壊したんじゃないかって…」
安堵の色を浮かべていた顔に、さあっと暗雲が立ちこめる。天真爛漫だったクイックは、色々な感情を胸に宿すようになったらしい。それを成長と前向きに受け止めるのかどうかは各人の判断に任せるとして、俺は喜ばしいことだと思う。でなければ、俺の気持ちにも気づいてくれることもないだろうし。それを抜きにしても、感情のために割かれた回路があるのだから、それが複雑に成長して多くの感情を理解し表すのは当たり前のことだ。時にそのことが苦しみをもたらすのだとしても。
「俺はどこも壊れていないぞ。」
笑って、両手を挙げてみせる。
「強いて言えば臭いぐらいだ。」
そう肩をすくめると、ふふっとクイックが笑った。
「たしかにお前臭いな!」
嫌味のないまっすぐなクイックの言葉は、相変わらず心地いい。なんだかおかしくて、二人でただ笑った。ばかみたいに笑い合っていると、不意にダカダカとすごい重い足音が近づいてくる。なんだと思って開けっ放しの扉を見ると、ダカダカという足音が大きくなってきた。そしてにゅっと不思議な形のヘルメットが部屋の中をのぞいてくる。
「あ、いた!」
震えるような声でそう叫び、クラッシュがダカダカ走ってとクイックに飛びついた。軽く避けられる速さのクラッシュをあえて受け止めて、クイックは不思議そうな顔をする。
「どうしたんだ、そんな顔して。」
ちらっとバイザーの脇から見える顔は、俺には無表情に見えた。
「さっき、クイックがすごい、悲しそうな顔してでてったから。ごめんね。」
要領を得ない発言内容は訓練の時と全く同じだが、クイックの腰にしがみついて謝る姿には訓練時の鬼のような気配が微塵もない。クラッシュはこんな顔もするのかと、見入ってしまうほどの変貌ぶりだ。
「いや、俺も悪かったよ。勘違いで取り乱してお前のこと疑ってた、ごめんな。」
クラッシュの頭に手を置いて、撫でてやるクイックの表情はやわらかい。撫でられているクラッシュも猫のように目を細めている。兄弟とは、温かいものだなと、がらにもないことを思ってしまった。
「お前も、ごめんね。」
鋭利なドリルの先が俺を向いた。クラッシュが俺のことを見据える。相変わらず無表情に見えるが、どこか緊張しているような気がする。
「かまわん。」
そう言うと、クラッシュの目元が少しほころんだようだった。