海に行こうの続きのお話です。
ちゅーはありませんが接触があります。
よろしければ追記よりどうぞ。
「おい、フラッシュ!メタルに聞いたぞ!」
カメラの手入れを自室でしていると、そう叫びながらクイックが転がり込んできた。何をメタルから聞いたのかは知らないが、悪い予感しかしない。レンズにカバーをかけて机の上に丁寧に置き、クイックを振り返った。
「何をだよ?」
「何をだよじゃねぇよ!お前耐塩ボディじゃないんだってな?」
俺に詰め寄りながら、クイックが睨むように見つめてくる。その目が少し恐くて、視線をそらした。
「三年もつやつを二年半前にした。だからまだ大丈夫だ。」
座っている俺の太ももに手を置きながら、クイックが俺の顔に自分の顔を近づけてくる。間近に迫った緑色のアイカメラが視界の端にちらついた。しばらくそうしているといきなり、がんと頭突きを食らわせられた。地味に痛い。
「話しをするときは人の目を見ろ!」
お前ロボットだし、とか口答えしたらどうなるか分からないのでやめておいた。代わりに、まっすぐクイックのアイカメラを見据えた。
「まだ耐塩効果は半年残ってる。だから、海に行くのは問題ない。」
そうか、と呟いたクイックは納得したものと思った。ほっと胸をなで下ろすと、またいきなり頭突きが飛んでくる。
「いてぇ!」
今度はアイカメラの奥で火花が散るほどの強烈な頭突きだった。思わず頭を抱えると、クイックがまくし立てるように言葉を発した。
「残り半年ぐらいは効きが弱いから事前に海に行くのが分かってんならメンテナンスで更新しろってメタルが言ってたぞ!」
いつの間にか俺の太ももの上に座りながら、クイックが怒る。それを知らなかった分けではない。むしろ知っていて金がかかるから更新にいかなかった。なぜかメタルは俺やバブルからはメンテナンス費を徴収するのだ。次のまとまった休みにクイックと海に行くんで金が入り用なのに、バカ高い耐塩費用なんて払いたくない。
「あんまり、金使いたくない…です。」
そう呟くと、ぎっとクイックが本気で睨んできた。あまりの恐怖に、視線をそらすことさえできない。身動きも瞬きもできない俺に、三度目の頭突きが飛んできた。
「っ!」
目をつぶることしかできなかった俺の頭では、驚くほど、優しい、こつんという音がした。恐る恐る目を開くと、視界いっぱいに緑色が広がっている。心配そうな光をたたえたその緑色は、ぱさりと長いまつげのついたまぶたの裏に隠れてしまった。
「お前が俺のために色々計画してくれるのはうれしいよ。でもな…」
すっとクイックの細い腕が持ち上がって、俺の首にまわされる。そして、そっと抱きしめられた。
「お前が調子悪くなったり、壊れたりするようなことがあったら、俺嫌だよ。」
ぎゅっと腕に力をこめながら、クイックは耳元で呟いた。
「…悪かったよ。」
そう言ってクイックの腰を抱き返した。俺の肩にのっけられていたクイックの顔が、また俺の顔の前に現れた。ゆっくりと唇を重ねようとお互いが距離をつめ、もう少しで触れあうと思った刹那、無粋な音を立てて扉が開いた。
「はい、フラッシュ!お楽しみの所悪いけど、気が変わらないうちにメンテ室に行こうね?」
クイックの肩越しに、吹っ飛ばしたくなるくらいうきうきなメタルが見える。出てけよと、叫ぼうとすると、クイックがするりと膝から降りた。
「そうだな善は急げだもんな!」
そう言って俺の手を笑顔で引いた。なんだか、新手の詐欺に引っかかったような心地がする。
「…待ってるから、早く行ってこいよ。」
クイックが、立ち上がる俺にそう小さく耳打ちした。ちょっとクイックを見ると、少しだけ照れたように視線を外されてしまった。