注意は1を参照でお願いします。
時系列的に6の後ろの話しです。
複電の視点でお送りします。
短いです。
よろしければ追記よりどうぞ。
うーうー唸りながら考え込んでいると、なぜかクイックも一緒に唸りはじめた。何事かと顔を上げれば、腕を組んで頭をひねっている。
「どうしたんだ?」
「…なんか質問間違えた気がすんだけど?」
そうだろうよと思ったが、口には出さなかった。先を促すように、何がだと聞いてやるとクイックが慎重にゆっくりしゃべり出した。
「お前が、俺のこと、どう思ってるかを聞こうと思ったんだ。」
うん、と一人でうなずき、にこっと笑いかけてくる。この質問になら、答えてやれる。そのためにした約束だ。明日からクイックの戦闘訓練の相手から外れるからこそ、今日という日にした約束だ。
「お前のことをどう思っているか、か?」
そうだ!と明るく言うクイックに、ずっと抱いてきた胸の内を告白する。それだけのことなのに、口がうまく動いてくれない。ひとつ、大きく排気した。
「俺は、お前のことが好きだ。」
出るときは案外するりと言葉になった。でも、クイックの反応を見るのが何となく恐い。嫌いだと拒絶されることに慣れているが、自分が好きだと思った相手に嫌われたことはあまりなかったから。つかずはなれるを、徹底してきた。その自戒を破ってまで告白した思いが、否定されたときのことを考えたら急にはっきりと恐くなった。
「そうか…。」
いつの間にか、クイックのつま先に視線が落ちている。そうか、と呟くクイックの顔はどんな顔だったのだろう。ふと、廃棄されるかも知れないと聞かされた時のことを思い出した。クイックにはめずらしく長い沈黙は、突然底抜けに明るい声に破られる。
「俺もお前のこと好きだ!」
その言葉に弾かれるように顔を上げると、無邪気に笑うクイックの顔があった。本当かとたずねようとした口が空回りしている間に、クイックはさらに言葉を重ねる。
「メタルやエアーやバブルと同じくらい好きだ!」
がんっと頭の中で盛大に音がした、気がする。
「…その三人と同列ということは、なんだ、その…。兄としてってことか?」
「それ以外に何かあるか?」
いろいろありますよと、言いたい。言ってしまえと心のどこかで叫び声がする。だが、とりあえず兄弟級に好きという位置を手にして、これ以上攻めていく度胸は、今のところ湧かない。乱れ飛ぶ思考を束ね、落ち着こうとするが、うまくいかない。そんな俺を尻目に、クイックはまた言葉を重ねる。
「コピーエレキは俺が生まれる前から俺のこと気にかけてくれてたって、バブルに聞いたんだ。俺もお前のこと気になってる、だからお前が俺のこと好きってことは俺もお前のこと好きってことだろう?」
それはつまり、今後クイックの中で俺の存在が兄弟とは違うものに変化すると期待していいのだろうか。だとしたら、地味だが大きな一歩に素直に嬉しい。最初に人類が月に降りた一歩と同じくらいの価値があると思う。……。思考が若干暴走している。クイックが自分のことを悪くは思っていないことだけ分かれば、今は十分だ。
「そうだな、そうかも知れないな。ところで…。」
うまくいってしまえば、失敗したときの保険にと今日を選んだ日がなんだか後悔された。贅沢な悩みというやつだなと、一人自嘲して言葉を継いだ。
「明日から、お前の弟の戦闘訓練に付き合うから…」
「えっ!?新しい弟もう起きてんのか?」
会いに行ってくると、疾風のようにクイックは走り去った。一人取り残されて、兄弟級から抜け出すのはかなり大変だとめまいを覚えた。だが、必ず抜け出してやる。今日の一歩のように、一歩でも確実に。