注意は1を参照でお願いします。
複電の視点でお送りします。
短いです。
よろしければ追記よりどうぞ。
メタルに引き留められて、クイックとの訓練の時間に少し遅れた。昨日一日クイックはなんだか上の空で、今日もやっぱり上の空だった。
「悪いな、遅れて。」
「ん…。」
時間に異常なほど正確な、というか早い方にずれているクイックは遅刻をとても嫌うのに、全く怒る気配もない。何をそんなに考えているのか、原因の心当たりがありすぎて困る。余計なこと言うんじゃなかったと後悔する心の片隅で、妙に清々しく思っている自分がいるからさらに困る。しかし、クイックに負担をかけたままではいられないので、一つクイックに提案した。
「クイック、俺に勝てたら、お前の聞きたいことを何でも答えてやるぞ。」
ぴくっとクイックの肩が動いて、伏せ気味だったアイカメラが俺を見た。綺麗な色のアイカメラだ。色以上に、そこに宿る光が美しい、なんてくさいことを思ってしまう。
「本当になんでもか?」
大きくうなずいてやると、にこっと晴れやかに笑った。
「よしっ!本当になんでもだからな!」
そう言うと、ふっとクイックの姿が風景に溶ける。俺は身構えながら小さく、本当だと呟いた。
クイックと戦闘訓練を始めて、どれくらい経つだろうか。長いようで、実際短い時間なのにとても驚いた。目の前に飛んでくるクイックの拳やら蹴りやらを避けつつ、そんなことを思う余裕はどこにもない。なのに浮かんでくる思い出のような記憶は、人間で言うところの走馬燈だろうか。それぐらい、今日のクイックはすさまじい。よほど抱えてる思いが大きかったに違いない、どうしても答えが知りたいのだろう。
「やっ!」
鋭いかけ声と共に、強烈な脚の一閃が胴体を直撃した。なんとかこらえるも、体勢を大きく崩してしまう。そんな好機を逃さずに、クイックはすぐに拳を俺の顔に突きつけてきた。これにて終了である。いつもならば。
「なっ?!」
突きつけられた拳を払いざま、サンダービームを見舞ってやる。放たれた電撃はクイックをかすることもなく、向こうの壁に当たって消えた。それと同時に、後ろから首に手刀が飛んできて床に突っ伏した。
「お前、相変わらずずるい奴だな!」
厳然とした事実を述べただけで、全く非難がましくないいつもの声音。その笑みを含んだ声に、ひらひらと手をふって降参を示した。
「大丈夫か?かなり強く打ったけど…。」
クイックはすぐに駆けつけてきて、俺のことを助け起こしてくれる。俺の不意打ちにも動じないなら、免許皆伝といったところだ。
「平気だ。それより、俺は何を答えればいい?」
俺の体をざっと眺めて点検しているクイックにたずねると、はっと思い出したように顔を上げてきた。そうだったそうだったと言いながら、ふむと顎に手を添えて考え始める。しばらくして、うんと呟いてから話し出した。
「俺はお前のことどう思ってんだ?」
「…はぁ?」
これがメタルだったらバカにされていると思ってぼこぼこにしているところだ。しかし、素直なクイックのことなので本気で聞いているに違いない。どう思っているって、こっちが聞きたいくらいだ。
「お前のこと抱きしめたくなるような話し聞いたり、お前のデータ作ってみたりするのって、どんな気持ちからなんだろう?」
それは好きってことですよ、と言ってしまえれば楽なのに。くだらないプライドなのかコピーの負い目なのか、なぜかそう言うことができなかった。