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注意は1に参照でお願いします。
軌道修正が、できたようなできていないような。
複電の視点でお送りします。

よろしければ追記よりどうぞ。



 

正直、嬉しい気持ちでクイックのことを待っていた。嫌われなかったと言うのがもちろん大きいが、立ち直りの速さに大物の予感を感じたのだ。今日からしごきがいがある。そう思って内心でもみ手をしていると、勢いよく訓練場の扉が開いて、赤い機体が転がりこんできた。

「来たぞ!」

何やら雰囲気が一変したクイックは、にっと強気に笑ってみせた。

「覚悟しろよ!バブルが言った通りけちょんけちょんにしてやるからな!」

なにか、吹っ切れたように清々しいクイック。ふっと、見る者に不快を与えることを十分承知で、唇をつり上げた。

「自分で再戦の約束も取り付けられないのに、俺に勝つことはできるのかな?」

安い挑発だと思いつつも、言わずにはいられなかった。自分を落ち着けるためにも、クイックに精神的ダメージを与えるためにも。なぜか、俺は焦っていた。焦ると言うより、気圧されている。昨日よりも明るく、朗らかなクイックに、経験を司る回路が警鐘を鳴らしていた。

「しょうがないだろ、昨日は本当にへこんだんだぞ!また戦えってあんなに負けて自分から言うのが恥ずかしかったんだよ!悪いか!?」

ものすごい早口だ。よく口が回るなと、変な所に感心してしまう。ややぼけている俺に、クイックがピッと人差し指を向けてきた。

「よーいドンでいくぞ。よーい…ドンっ!」

ドンの余韻が残っているのに、クイックの姿は空気に溶けて見えなくなった。

 

昨日と全く違う戦闘パターンだ。ダイレクトに俺を狙ってきていたのに、今日はまだ一打も入れに来ようとしない。俺の周りを、床や天井壁といたる所をゴム玉のようにはねている。俺のアイカメラは比較的速いものを捕らえることができるが、今のクイックは残像しか追うことができない。

「飛び跳ねるだけじゃ俺は倒せないぞ!」

我慢勝負だ、と頭の隅で思ったのに、いらない挑発をしてしまう。言葉が終わるか終わらないかという一瞬、背後から強烈な拳打が背中に飛んできた。ほとんど死角からの一撃を、すんでのところでかわす。振り向きざまにサンダーボルトを見舞ったが、クイックの影すらそこにはなかった。どこだ、飛び跳ねる姿を視界の中に収めていない状況に嫌なを感じを受けながら、ぐるりと体を半回転させる。その時、胸を押さえながらうずくまるクイックがアイカメラに飛び込んできた。苦しそうに体を揺らしているクイックを見ていると、制作途中の動かない赤いロボットが頭をかすめる。また、動きもしゃべりもしなくなったら、恐い。そんなのは嫌だ。

「おい…。おい大丈夫か!」

駆け寄り、肩に手を置いてそう聞いてやる。肩の震えが、一段と大きくなる。起動一ヶ月目には負荷のかかり過ぎる動きだったのかも知れない。どうしてやればいいのか、思考回路がうまく働いてくれない。ふっと、クイックが顔を上げた。その表情は、満面の笑み。

「うげぇっ!?」

驚いてほうけている首に、クイックのクロスチョップがクリーンヒットした。ものすごい声を出して床にふっとばされた俺の腹に、ちょんとクイックが乗っかってくる。ものすごく軽いが、咳き込んでる腹の上に乗らないで欲しい。

「お前すごい声出したな、今。」

小首をかしげながら俺を見下ろしてくるクイックは、とてもその、可愛い。見とれていると、にっとクイックが快活に笑った。

「こういう風に、汚い手をつかう戦い方が俺に足りないんだろう?」

汚いとかなり強い言葉を使っているのに、嫌味っぽくも非難がましくもない。不思議だ。

「でもな、俺はこういうの嫌いだから。威風堂々と戦うぞ!」

腹から、わずかな圧力が消えて、クイックが二メートル程離れたところに立っていた。早く続きがやりたいと誘うように、ぴょんぴょんと軽く飛び跳ねている。俺はその誘いにのり、脚を持ち上げて思い切りふる反動で立ち上がった。

「正々堂々…なっ!」

二回戦開始の合図代わりに、サンダーボルトが空を切った。

 

結局、クイックも俺も決定打を欠いたまま、勝負はつかずじまいだった。メタルからもう今日はお終いと放送が入らなかったら、二人とも倒れるまでやっていたかも知れない。

「…ずいぶんと、戦い方を考えてきたんだな。」

酷使した動力炉を落ち着けながら、膝に手を置いて大量に排気しているクイックに話しかけた。しばらくふーふー言っていたが、ゆっくりとしゃべり出す。

「お前のこと調べたんだ。電撃を扱うから、目がいいんだなお前。だから、昨日俺の攻撃は全部見切れたのかと思って、いろいろ工夫してみたんだ。」

最後に小さく、ほっと息をついて、背中を伸ばした。俺のことを調べたというなら、あのことも知ったのだろうか。ふと、よぎった疑問が、するりと口からすべり出した。

「俺のこと調べたってことは、オリジナルのデータ見たんだろう?その…、お前のモデルになったエレキマンのデータを。」

クイックが不思議そうに俺を見つめている。

「お前のこと調べるのに、お前以外のデータなんか見るわけないだろう?」

とても当たり前のように、普通じゃ考えられないことを言っている。言葉にならない気持ちが、胸に渦巻いている。一番近い言葉で表すなら、喜びなのに、俺の口は裏腹な言葉を発していた。

「俺の、データなんかあるわけないだろう!?俺はオリジナルと寸分違わぬコピーだぞ!」

オリジナルのデータを見れば、俺のことなんて何でも分かるのだ。クイックは何を言われているのか分からないと言ったように首をかしげている。

「あるよ。メタルとかエアーとかバブルに聞いて回ったんだ、お前の癖とかさ。それをデータ化したから、お前だけのデータ、あるよ。だいたい、寸分違わぬことなんてないだろう?あっちはD.R.Nで、お前はD.W.Nなんだし。」

クイックのその言葉に、廃棄されかけた俺達コピーを必死に守り、手元に残してくれたワイリー博士の姿が浮かんだ。維持費だってバカにならないのに、ばらして再利用することもなく、今にいたるまでずっと。D.R.NでもD.W.Nでもないことを、負い目のように感じていた。コピーであることにもだ。そのことが、クイックの一言で一変したような気がする。

「お前、俺のことは何でも知っているわけだ。」

そうだぞっと、子供のように胸をはるクイックが愛おしい。反面、起動間もないクイックに諭されたことがすこし悔しい。

「俺も知ってるぞ、お前は俺によく似ていると。」

やぶれかぶれにそんなことを口走ってしまって、俺は今までにないほど赤面してしまった。

 

 

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