第2弾です。諸注意は1を参照でお願いします。
メタルとバブルの視点でお送りしています。
ものすごく中途半端なところで終わっています。
よろしければ追記よりどうぞ。
クイックが走り去った後、仰向けに突き飛ばされたコペがごろんとうつぶせになった。その後しばらくぴくりとも動かない。どこか壊してしまったのかと近寄ると、ぼそぼそぼそぼそと可聴域外の低音で何か呟いていた。とりあえず、可愛い弟を泣かせてくれたお礼にケツを踏んづけてやる。ぼそぼそがぴたりとやんだ。
「…そういう趣味はない。」
「私だって、君にしたいとは思わない。」
ぐっと足の下の体に力がはいり、コペが立ち上がろうとしたので、今度は背中を踏んづけた。ぐえと言ってふたたび床に突っ伏すコペ。クイックのことをあんなにいじめたコペに、少し呆れて声をかけた。
「クイックのこと起動する前からずっと気にかけてたのに、どうして嫌われるようなことしたんだい?」
ふんと、コペがせせら笑うように息を吐いた。
「教えただろう、訓練で手を抜くと抜かれた仲間が戦場で死ぬことに手を貸すことになるんだと。だいたい、嫌われるのは慣れている。」
人間に愛されるD.R.Nのコピー達は、とても人間に嫌われていた。自分の未来もそうなるだろうと思うけど、愛される自分のそっくりさんがいたら嫌だろうと思う。ましてや愛されている方が本物で、嫌われている方がコピーだなんて、やりきれない時があるのではないかと思う。だからといって…。
「だからって、好きな相手に嫌われて平気なの?」
ぐしっと、鼻をすする音がした。
「そんなこと言ったら…。そんなこと言ったらなぁ!」
のっけていた足をものともせずに、コペががばりと起き上がってまくし立て始める。目がちょっと、涙目かも知れない。
「エアーには避けられて、バブルには消えろって言われたことあんだぞ!しかもお前!その度に、俺のこといたぶってくれたのはどこのどいつだ!」
はーいと手を挙げてひらひらふってあげた。
「可愛い弟をいじめてくれたんだ、そのくらいのことされても当然じゃないか。第一、
だって私のことを最初はずいぶん可愛がってくれたじゃないか。」
初めて手合わせしたときのことを思い出して、なんだかいらいらしてきた。今でこそ打ち解けて軽口をたたき合っているけど、当時は本当にスクラップにしてやると思っていた。それほど、コペは戦闘用としての私のプライドを逆なでした。さっきだって、クイックはだいぶ傷ついただろう。なんか、もう一発ぐらい蹴ってもいいような気がしてきた。蹴りを実行に移そうとした刹那、通信が入る。それがバブルからの通信だったので、蹴るのは一端止める。すぐに回線を開くと、気怠げなバブルの声が頭に響いた。
『そこにさ、コピーエレキいる?』
『いるけど、なんだい?』
バブルはオフラインで誰かとしゃべった後、また回線に意識をのせてきた。
『明日クイックが、君のことをけちょんけちょんにするよって、コピーエレキに伝えておいて。』
そうして通信は、かかってきたときと同じく一方的に切れた。かくかくしかじか、コペに伝えるとコペは楽しそうに唇を引き上げる。
「明日か。どれだけ進歩して来るんだろうな?」
そう言って、訓練場を出て行こうとしたコペの背中に言葉を投げた。
「君が私の弟を好きでいてくれて嬉しいよ。クイックは特に、好きなんだろう?」
ちょっと険を含んだ目で振り返ったコペは、皮肉げに笑って答えた。
「終わった話を、蒸し返すなよ。」
そのまま訓練場を後にするコペを見送って、一つため息をつく。
「終わってなんかいないじゃないか、始まってすらいないくせに…。」
聞かせるべき相手のいない言葉は、むなしく訓練場に響いた。
水槽の中で静かに、メタルに無理矢理借金させる方法を考えていると、水がふるえた。何事かと水面を振り仰ぐ。水に顔をつけたクイックと目が合った。なんだか、落ち込んでいるようで元気がない。話しを聞いて欲しそうなので、そばにいってあげようと思う。軽く底を蹴って、水面に顔を出した。クイックもザバリと顔を出す。水槽のへりに頬杖をついてよくクイックを見てみると、いつもどことなく浮かんでいる自信が今はどこにもなかった。
「どうしたの?」
気をつかわれるのを嫌がるのは、短い付き合いながらよく分かっていた。それでもこんなに意気消沈している初めての弟を放置することはできない。というか、なにが原因かボクにはうっすら見えていた。水面を見つめて、ボクと視線を合わせずにクイックは黙っている。そうやってしばらく黙っていると、意を決したのか口を開いた。
「俺、負けちった。」
少しおどけたような明るい声に、心が痛んだ。できるだけ平静を装って言葉を発した。
「コピーエレキにでしょう?」
うつむいたままだったクイックが、目を丸くして顔を上げた。
「なんで、知ってるんだ?」
「ボクもね、あいつにこてんぱんにされたことがあるんだよ。」
驚いたような顔のままのクイックに、少し昔話をしてあげた。