長いお話を書こうという試み第1弾です。
いつも以上に話しがまとまってない感が否めません。
この記事は、長めです。
複電速です。
よろしければ追記よりどうぞ。
「すごいな、クイック。」
いつの間に訓練場に入ってきたのか、メタルが呟く声が聞こえる。動くのを止めて、クイックブーメランをしまった。両断したいくつものプラスチックでできたターゲットが散らばり、気がつくと足の踏み場もなかった。
「起動してからまだ一ヶ月ほどしか経っていないのに、良く自分の能力を使いこなしているね。」
「…当たり前のことだ。」
微笑みながら近づいてくるメタルに、素っ気なく言って顔を背ける。三人いる兄達は俺のことをほめてくれるが、まだまだだ。実戦の経験がない俺が、本当に優れた戦闘ロボットかは分からない。ただ、強く速くあるために作られたからそうありたいと思っている。そのために毎日訓練しても、相手がプラスチックの作り物だとなんだか気が抜けた。早く、実戦がしたい。
「んー。ちょっと早いけど、実戦形式で訓練してみる?」
俺の顔をずっと見ていたメタルが、おもむろにそんなことを口にした。勢い込んでメタルの方を振り返ると、メタルはにこにこと笑っている。
「本当に?」
「うん、本当に。」
メタルはうなずいてから、耳に手を当て誰かに連絡をしだした。
「私かエアーが面倒を見てあげたいのだけど、新しくできた弟の設定が忙しくてね…。」
俺にそう言うと、黙り込んでしまう。回線が繋がったらしく、しばらく黙っていた。
話しがついたのか、メタルが耳から手をはなす。
「今呼んだから、すぐ来るよ。」
そう言い終わるやいなや、訓練場の扉が開いて見慣れないロボットが入ってきた。しなやかな動き、俺より、もしかしたらメタルよりも年代が上なのかも知れない。半目だけど、かっこいい顔つきだと思う。
「紹介するね、彼はコピーエレキマン通称コペ。」
「…コペ以外ならなんとでも呼んでくれ。」
コピーエレキマンと紹介されたそのロボットは、データ照合するとD.R.Nのエレキマンとよく似ている。俺達が生まれる前に、博士がD.R.Nのコピーを作ったという話しは聞いていたが、一度も会ったことがないのが不思議だった。
「はじめましてだな、クイックマン。」
手をさしだしながら、コピーエレキマンが言った。人の良さそうな微笑みで握手を求められ、その手を握りかえそうと触れた瞬間、恐ろしい電圧の電流が体を駆け抜ける。
「つっ!!」
反射的に手を引っ込めると、ふっとせせら笑う声が聞こえた。突然の出来事に頭が追いつかなかったが、バカにされたのだけは分かってきっと睨み付ける。さっきまでの人の良さはどこえ消えたのか、氷のように冷たい視線が飛んできた。
「今のはお前の闘い方に足りないものだ。分かる…かっ!」
コピーエレキマンがしゃべっている途中で、手が出ていた。自分でも驚くような行動なのに、コピーエレキマンは俺の拳を軽くいなす。
「起きて一ヶ月じゃ無理ないかも知れないが、今のままじゃ俺には勝てないよ。」
勝てない。その言葉に言いようのない恐怖を感じた。
「勝てないかどうか、試してやるよ!!」
その得体の知れない感覚を打ち消したくて、意味もなく叫び、勝算もなくコピーエレキマンに突っ込んだ。
がむしゃらに拳をくりだすも、すましたコピーエレキマンに一撃もとどかない。空を切るばかりの拳に、焦りが募っていく。早く動くために作られたのに、実際ものすごい速さで動いているのに、なんでこいつはこんな簡単に回避ができるんだ!
「足下の注意がお留守だぞ?」
そうコピーエレキマンが言った直後、かかとに何かが当たってよろけてしまった。何かが、さっき斬ったターゲットだと視認したとき、思い切り胸に突きを食らって倒されてしまう。すぐに起き上がろうとしたら、コピーエレキマンにマウントポジションをとられた。人差し指が俺の顔に突きつけられる。その先がわずかに帯電していて、パチパチと小さく音がした。認めたくない状況。感情回路が暴走したように、処理しきれない量の信号が頭を駆けめぐった。
「それまでだよ、コペ。」
今まで黙って見ていたメタルが、初めて口を出してくる。メタルにかばわれた。そのことが、俺に追い打ちをかける。情けなくて、涙がこぼれた。
「どけよっ!」
俺にのしかかっているコピーエレキマンを突き飛ばして、気がついたら訓練場を飛び出して、どこへともなく走っていた。認めたくない、でも認めなければいけない。誰もいない鬱蒼とした森の中で、立ち止まって天を仰ぐ。
「俺、負けた…。」
言葉は吹き抜ける風にのってどこかへ消えたが、負けたという事実だけはずしりと胸の中に残った。