後編です。注意は前編参照でお願いします。
なにがあっても許せる方向けです。
よろしければ追記よりどうぞ。
腕の中に、意識を手放したクイックを抱き抱える。腕も脚も、研究より破壊を優先されたとしか思えないほど乱雑に奪われていた。胸に無理矢理こじ開けられた穴以上に、こいつの心には大きな穴が開いているに違いない。ヘルメットをはずされ、人工皮膚を剥がされた頭部はさらに切開され、繊細な電脳が剥き出しにされていた。そこに無造作に電極等がさしこまれている。外部端末にさしてあるコードは残らず引き抜いたが、この電極は引き抜くのが恐い。何か、思いもよらない事態が起きたとき、ここの設備では直せないだろう。基地までは、さしっぱなしにしたほうがいい。
「すまん、すぐこれなくて。」
三日前に、ある情報の真偽を確かめるためにのりこませた研究室は、大きな罠だった。そこで対ロボット用の妨害電磁波のためにクイックは動けなくなり、通信も位置特定用のシグナルも途絶えてしまった。その作戦を立案したのは俺、クイックを指名したのも俺だ。そのことが、無事とはいえない兄を、恋人を目の前にしてまた重くのしかかってきた。
「フラッシュ。」
呼ばれて振り向くと、赤い機体をさらに紅く染めたメタルが歩いてきた。手に持った白いシーツのような布を手渡してくる。受け取って、クイックをくるんでやった。隣でメタルが鋭く舌打ちする。そして電極につながるコードを引きちぎった。異物が入ったままだが、クイックは三日ぶりに自由になる。頭にも布をかぶせてやった。
なぜか、このまま帰ってこない気がして恐い。ぐっと力をいれて抱きなおすと、軽い機体がいつも以上に軽かった。
からからと、車椅子の車輪が小気味よい音をたてながらクイックを乗せて近づいてくる。あれから一週間たち、脚以外の箇所は全部直っていた。心配されたデータの欠損もほとんどなく(斑にしか思い出せないのは囚われた時の記憶だ)、以前と変わらない笑顔を俺に見せてくれる。その笑顔が逆に、俺の心をしめつけた。こんな風に笑
いかけてもらう資格なんて、俺にはないように思える。
「なぁ、フラッシュ。天気いいから、外に出たいんだけど?」
「…分かった。」
車椅子を押して庭に出た。確かに天気がよく、燦々と降り注ぐ陽射しが眩しい。
「久しぶりに青空見た。」
そう言って笑うクイック。思わず、目を細めてしまった。お互い黙ったまま、風に吹かれ日の光を浴びている。ふぁ、とクイックがあくびをした。本調子ではないからなのか、何もしないことになれていないからなのか分からないが、とても眠そうである。膝にかけられている毛布を引き上げてやる。むにゃと、目をこすって俺を見上げた。
「あのな、言いたいことがあんだ。」
穏やかな声色なのに、身構えてしまった。
「なんだ?」
最悪嫌われて、別れ話を切り出されても文句言える立場じゃない。クイックが目覚めてから、ずっと覚悟していた。その時が今来ただけだ。
「あのな、大好きだぞ」
言うだけ言って、こてっと寝入ってしまった。どうしてだと、問い詰めようとしても気持ち良さそうに眠るクイックを起こせない。
「俺のこと、怒ってないのか?」
くう、とクイックの喉がなる。なんだか、クイックの心の広さというか、器のでかさというかを再確認した。きっとクイックは怒ってなんかいない。だけど、目が覚めたら謝ろうと思う。今回のことと、勝手にクイックの愛情を疑ったこと。
車椅子に寄り添うように体をあずけ、フラッシュが眠っていた。それを見つけたメタルは、庭で遊ぼうとしていたよい子たちに、お部屋で遊ぶようにというのだった。