彦星も織り姫もお星様も出てきません。
2ボスがちょこちょこでています。CP要素は希薄です。
ですが最後にちょっと光速要素があります。
苦手な方はご注意を。
よろしければ追記よりどうぞ。
ちょっと走ってくると言って朝方出て行ったクイックが、白いビニール袋を持って帰ってきた。何をするでもなく談話室に集まっていた七人の兄弟に向かって、笑顔でその袋を掲げて見せる。
「七夕やろうぜ!」
聞き慣れない言葉。頭の中の辞書を引くと、どうやら夏にやる年中行事のようだ。にこにこ笑って一同を見渡すクイックに、クラッシュが尋ねる。
「タナバタってなに?」
ざっと見た感じ、七夕が分からないのはクラッシュだけではないようだった。異国の祭りだから仕方がない。読書しかやることがなかったといって、変なことまでよく知っているバブルも少し首をかしげていた。
「あのな、願い事を細い紙に書いて、これに吊すんだって。」
袋の中をゴソゴソあさり、中から手のひらに載るぐらいの箱を取り出した。そしてその箱の中から、ガラスでできた丸いものを出す。
「なにそれ?」
今度はヒートが聞いた。クイックが一瞬言葉に詰まる。
「えーと、なんだっけこれ?」
うーんと考え込んでいるクイックに、くすくす笑いながらメタルが助け船を出した。
「それは風鈴ていう鈴だよ。窓の外とか、風の吹く場所に吊すと音がするものなんだ。」
へぇ、と買ってきた本人が納得している。おもむろに丸いガラスについているひもを指でつまみ、風鈴をつり下げた。少し揺れたが、音はしない。そのまま、しーんとみんなで風鈴を凝視していた。だが、風鈴はうんともすんともいわない。当たり前だ、ここは室内で締め切っているのだから。そのことに気づかないというか、思いが至らない俺をはさんだ上と下二人ずつ計四人が、恐いくらい真剣に風鈴を見つめ続けていた。ふぅ、とため息のような音の後、そよりとわずかに風が吹く。風鈴の下についている縦に長い紙が風をうけ、風鈴が小さく揺れた。ちりーん。余韻の美しい澄んだ音がする。
「わあ、きれいな音だね。」
余韻が全て消えてから、ウッドがそう言って喜んだ。他の三人も一様に喜んでいる。風の吹いてきた方をちらっと見ると、やっぱりエアーがいた。メタルとバブルもエアーのことを見ていて、なんだか居心地悪さ気に体をゆする。そんなエアーに、メタルがにこっと笑いかけた。青いエアーの機体の、目のあたりが赤い気がする。メタルに悪気がなくても、エアーが気の毒になってきたので話題を変えようと口を開いた。
「七夕の願い事はな、風鈴に吊すんじゃねぇよ。」
えっと言って、風鈴を見ていた四人が俺を振り返った。
「そうなの?じゃあ何につるすのさ。」
ヒートが俺のことを見上げて、目をぱちくりする。そしてなぜか七人分の視線が俺に集まってきた。大したこと言う訳じゃないのに、無性に緊張してくる。
「笹に吊すんだ。」
「そうなのか、なんで間違えたんだろうお店の人。」
クイックがへーと言いながら、首をひねっている。多分、クイックの早とちりではないかと俺は思ったが、言わないことにした。
「お店って、クイックどこまで行ってきたの?」
黙ってことの成り行きを静観していたバブルが口を開いた。クイックがまた首をひねる。
「…島にしちゃでかくて、大陸にしちゃ小さい国だったなぁ。」
日本?とメタルに聞かれて、そこそこ!と思い出したように微笑んだ。そして、談話室で一番大きなテーブルに歩いてきて、袋の中から七つ箱を取り出した。そこに、箱に戻した一つを足して、八つにする。
「じゃあ、これ土産ってことで。」
色も形も様々な風鈴をみんなで分けてから、ウッドが育てていた竹を代用して七夕はつつがなく行われた。
「ところで、何でいきなり七夕なんてしようと思ったんだ。」
お開きになった後、二人きりになった談話室で尋ねてみた。竹に吊された願い事を見つめていたクイックが、ふいっと俺の方を見る。綺麗な形の口が、静かに動いた。
「お前とずっと幸せでいられるようにって、願いたいと思ったからだ。」
さっき聞いた風鈴の音と同じくらい澄んだ言葉に、気がついたらクイックを抱きしめていた。ぽんぽんと腕を叩かれる。
「ここじゃだめだぞ?」
そうささやいた声にうなずきで答えて、俺の部屋まで手を引いていった。