もうパロディではなくなってしまいました。
原作迷子です。
オチも迷子です。
注意は前編参照でお願いします。
なにがあっても動じない方向けです。
よりしければ追記よりどうぞ。
クローゼットには誰もいなかった。家の中にも誰もいなかった。クイックが煙のように消えてしまった。来るべき日が来たのかも知れない。予想していたことでも、いざ現実として目の前にすると喪失感は計り知れないものがあった。なにも手に着かないまま、時間だけが過ぎていく。夜が更けて、空が白んで、朝になってもクイックは帰ってこなかった。仕事に行く気にもなれなくて、一日中家にいた。心のどかで、クイックが帰ってくることを期待しながら。でも、夕焼けが沈み始める時間になってもクイックは帰ってこなかった。
赤くゆらめく夕日は、ここにはいないクイックの髪を思い出させた。もうクイックが帰ってこないなら、俺がここにいる意味なんて無いように思える。いっそ死んでしまえば楽なのかもしれない。そう思って、ベランダに出た。建物に姿が少し隠れてしまっているが、夕日は変わらずに美しくそこにあった。こんな綺麗な赤色の中で、死ぬのも悪くないな。意を決して、ベランダの手すりに手をかけた。その時、遠くでクイックの声がした。走馬燈って奴だろうか、幻でも最期にクイックの声が聞けて良かった。笑顔で一線を越えようとしたとき、いきなり脚を蹴られる。何事かと振り返れば、そこには赤い髪の綺麗な青年が立っていた。
「ただいまって言ってんだろう!無視すんな!」
そこには、もう帰ってこないと思ったクイックが立っていた。
帰ってきたクイックに泣いて抱きついたら、どうしたんだと聞かれたので、ことの顛末を全部話した。それを聞きながら、ソファに腰掛けたクイックは驚いている。
「俺が出て行くわけ無いだろう?」
緑色の目を、いつもより大きくしながら言った。
「じゃあ、お前どこに行ってたんだよ?」
鼻をすすりながら聞いてみると、クイックが晴れやかに笑う。
「母さんに話をつけてきた!」
はぁ?と言いたかったのを必死にこらえながら、クイックの話しの続きを聞いた。曰く、クイックを嫁がせたくなかった母親が、早く離婚するようにと間男を毎日送り込んでいたらしく、それを止めるようにと母親に言いに行ったとのことだ。
「あの男どもはお前が引き寄せたんじゃないのか?」
「俺にそんな力ねぇよ。母さんに比べたら顔もそんなに良くないし、だから最近おかしいなと思ってたんだ。」
彫刻として美術館に飾ってあってもおかしくないくらいのクイックより綺麗な奴とか、想像できない。ふーんと、気の抜けた返事をするとクイックが手を打った。そうそうと、何か思い出したようにまたしゃべり出す。
「綺麗な海と島が空から見えたんだ、今度お前の仕事が一段落したら行こう!」
母親たる女神の差し金が無くても、クイックはきっと男どもを虜にして止まないだろう。俺だってその男の中の一人なのだ。でも、クイックはここに帰ってきてくれた。必死に思いこもうとしなくても、今では自分がクイックの特別になれたと自然に思える。
「そうだな、一緒に行こう。」
軽くなった心の中には、クイックへの好きが詰まっていて、自然に声も明るくなった。