つきあい始めくらいな感じの光速です。
TQ小話が思ったより量が少なかったので、長めにしたら
尻切れとんぼになりました。エロくはないですが、ちゅーしてます。
よろしければ追記よりどうぞ。
「どこか行くか?」
俺の部屋のベッドの上で、寝転がりながら車雑誌を読んでいるクイックに聞いてみた。ぱっとクイックの顔が俺を向いた。緑のアイカメラの絞りが全開になっている。キュウッと音がして絞りが細くなる、ようやく俺に焦点が合ったようで早口に答えが返ってきた。
「どこに行くんだっ?」
もともとじっとしているのが性に合わないクイックは、飛び起きてベッドに座り直した。どこかに出かけるというのが嬉しいのか、もう一度「どこ行くんだっ?」と聞いてくる。正直、部屋で一緒に過ごすだけの時間が、クイックと付き合い始めて大半だったので、どこか行って恋人らしいことでもした方がいいのだろうかと、悩んだ末にノープランのままに提案だけが口をついて出てしまったと言うのが本当で…。落ち着け俺!思考の暴走をなんとか止めて、うきうきという擬音語を背負っているクイックに答える。
「も、森とかどうだ?」
森ってなんだよ、狩りでもすんのかよ!と内心自分に十六連打で突っこみを入れながら、クイックの反応を待った。ちょっと、窓の外をクイックが見る。いい天気で、雲がゆっくりと風に流れている。ピクニック日和だ。
「いいなぁ、今ならクマとかうまいだろうな。」
博士に獲ってきてやろうか?と俺にほほえみかけるお兄ちゃんの顔が、若干本気で恐いのだが。
「…森はやめよう。」
クマにクイックがやられることはないと断言できるが、俺がクマにやられないということは悲しいかな断言できない。クイックの前で、あまり情けない姿は見せたくない。森がだめなら、海はどうだ?だめだろクイックだったら大王イカとか、クラーケンとか捕まえかねない。いやいやいや、落ち着けよ。意味もなくかぶりをふって、自分を落ち着けようとする。どうも俺は、クイック絡みのことになると冷静ではいられなくなるらしい。じっと、期待に満ちた目で俺を見つめているクイック。その目を見ているだけで、感情回路の制御がうまくできなくなってきて、はらなくてもいい見栄をはってしまいたくなる。どこならクイックが喜ぶのか、考えても分からない。気の利いたことを言いたくても、肝心なときに俺の頭は働いてくれない。クイックに見つめられるということは、それだけ俺にとって特別なことのだと、あらためて実感した。
「…やっぱりここにいたいな。」
クイックに見つめられたまま、動けなくなってしまった俺にクイックが言った。気を遣わせてしまったと、俺が謝ろうと口を開いた。刹那、パソコンの前に座っていた俺の目の前に天井が広がる。背中に、ベッドのスプリングの軋みを感じる。ぱちくりと瞬きすると、クイックがのぞき込んできた。満面に、穏やかな笑みをたたえている。
「ここで、お前といられればそれでいいや。」
だから悩まなくていいよ、そうささやいてきた。人間だったら、鼻があるあたりをクイックが人差し指でつついてくる。それは、まだ兄弟でしかなかった頃から、俺の心を見透かした後にクイックがとるポーズだった。恋人としてはリードの一つもできなくて情けないことこの上ないし、この情けなく思っている気持ちもクイックにはばれているだろうと思うとさらに情けなくなってくる。でも、クイックが愛しいのは紛れもなく本当のことで、きっとそれも見透かされてるのだろうと思う。なら、じたばたする必要もないのかなと、クイックの優しさに甘えたくなってしまう。
「俺も、お前とここにいたい…。」
そっと手を伸ばすと、その手をクイックが取って自分の頬まで導いてくれた。そのまま、クイックの顔を俺の顔までゆっくり引き寄せてくる。クイックの緑のアイカメラが、きれいなまぶたの裏にかくれた。薄いのに柔らかい唇に、軽く唇を重ねる。クイックの長いまつげが少し震えた。こういうことぐらいでしか、クイックを甘やかすことができない。日常生活でもどっしり構えていたいのだが、今一歩、弟の域から出ていない気がする。しっかりしなくてはという決意も、二人でいるベッドの外に出ると揺らいでしまうから困りものだ。ベッドの中にいても、決意どころではなくなってしまうから困りものだ。