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最後です。光速・加速要素あり。
ややシリアスで長めです。
よろしければ追記よりどうぞ。

 


「結局この4月バカは、良くも悪くも俺をはめるためのものだった。普段だったら、こんなことされたらものすごく不機嫌になるだろう。だが、式をあげるための教会に移動する間、俺は自分でも気持ち悪いくらい上機嫌だった。クイックの花嫁衣装は可愛いし、公にクイックは俺のものだと示せるのが嬉しい。これでクイックに近づいて来る有像無像を三割位は減らせるだろう。それを思えば、紋付き袴で笑い者にされたことだって我慢できる。

「おい何笑ってんだよ、気持ち悪いな。」

隣を歩いていたクイックが、不思議そうに俺を見上げてきた。

「なんでもねぇよ。」

そう答えた俺の口元はやっぱり笑っていた。

 

結婚式場では入場などなく、いきなり誓いの言葉から始まった。祭壇の前には、神父役のキングが居心地悪そうに立っている。キングの部下が座っている辺りから響く笑い声が、さらに拍車をかけているようだ。げんなりしながら、キングが口を開いた。

「えー、新婦は…」

「おい、メタルが怒るぞ?」

クイックがそうささやくと、キングの目線が一瞬遠くを見た。

「別にメタルマンが怖い訳じゃありませんが、改心した身ですから。争いは極力避ける方向でいきましょうかね。」

そうしてくれと、クイックがまたささやくとキングがため息をついた。そしてアホかと思うほどキングが大まじめな顔になると、我が耳を疑うような言葉を。

「汝等はあー、互いぐぁ病メルゥ時もスコヤーカナル時もぅお…」

「…つっこみ待ちか?」

あまりにも真剣すぎる面持ちと、あまりにもふざけすぎている言葉遣いのギャップに、問答無用でつっこむことができなかった。キングは少し肩をすくめて、皮肉っぽく笑った。

「あえてスルーの方向で。」

その後も延々とえせ外人風に誓いの言葉を取り仕切るキングに、指輪の交換までにはキング軍以外の奴らも大小の差こそあれみんな笑っていた。キング本人も口元がやや上がってきている。

「えー、指わぁは諸々の理由でぇ、用意できなかったのでぇ、誓いのキスをしぃてください。」

カツンとヒールの音がとなりでした。そっちに体ごと向き直ると、漆黒のドレスに身を包んだクイックが微笑んでいる。薄いベール越しでも、その美しさも愛らしさもにじみ出ていいた。ベールをめくろうと、そっと手を伸ばす。と、とてつもない衝撃が脚を襲った。

「ほげあっ!?」

あまりの痛さに片膝を折ってしまった。悠然と、クイックが蹴り上げた脚を元にも出す。にこやかな顔に、有無を言わせない迫力が宿る。すっと目の前に、指の長い手が差し出された。

「キスしていいぞ?」

呆然とその手を見ていると、そうクイックが言ってきた。顔を上げてクイックを見ると、女王様然とした優雅な仕草で首を傾げる。さらりとベールが動いた。

「よろこんで。」

差し出された手を、そっと握る。口づけるために顔を近づけていく。もう少しで、その整った指先に口が触れる。その瞬間、教会の扉が派手な音を立てて開いた。参列者の視線を一身に受けた乱入者は、緑色のレーシングカーだった。

「ターボ!?」

クイックが驚きの声を発するのと、緑色の車が人型に変形するのはほとんど同時だった。でかい機体に表情の読めないサンバイザーのターボは、名前を呼ばれて一瞬苦しげな目をしたように見えた。踵についた車輪が甲高い音を立てて回り出す。クイックほどでは無いが、かなりの速さでターボが距離を縮めてくる。バスターは着けたままだが、ここで発砲するわけにはいかない。クイックとターボの間に体を入れて、臨戦態勢を整える。クイックとターボの間には、恋人とは違うが力強い絆があることを知っていた。だから、胸騒ぎがする。このまま、クイックを連れて行かれるのではないかと。正直な話し、俺なんかよりも、ターボの方がずっと魅力的だと思うし。

ストッパーを構えてしまう。持っていかれるぐらいなら、壊してしまえと、体の奥の方でスイッチが入る音がする。

「サンダービームッ!」

「ジェミニレーザぁー!」

タイムストッパーが発動するより速く、二方向からの攻撃が俺の右腕を直撃した。衝撃はそれほどでもなかったが、かなり痛い。破損した腕をかばいながら、為す術もなくターボを睨みつけていた。クイックは俺に視線を向けた後、ターボを見つめて口を開いた。

「どうしたんだ、ターボ?」

「あんたに聞きたいことがある。」

何だと先を促すクイックに、ターボは一呼吸おいてから口をきいた。

「俺に、この手に口づける資格はあるか?」

クイックはなんのためらいもなく答える。

「かまわない。」

会場が水を打ったように静かになる。その静寂を半ば強引に打ち破ったのはスターの一声だった。

「じゃあ、ミーは!?」

「お前は嫌だ。」

間髪入れない返しにぶーぶー文句を言ったが、クリスタルがぶん殴って黙らせる。再度、嫌な静けさが戻ってきた。その中で、ターボはそっとクイックの手を持ち上げる。壊れ物を扱うように、ゆっくりと額にその手をくっつけた。

「それだけ分かれば、十分だ。」

クイックの手を放し、ターボが背を向けて歩き出そうとする。その腕を、クイックが文字通り目にもとまらぬ速さで捕まえて、ついでに俺の怪我してない方の腕も捕まえる。両脇に自分よりでかい機体を従え、引きずるように祭壇の前まで歩いて行く。面白げにことの成り行きを見ていたキングに、クイックが尋ねた。

「なぁ、さっきの誓いの言葉って、一人だけにしかできないのか?」

キングは肩をすくめるとおどけたように答える。

「まぁ、神の言葉とやらに照らすなら、伴侶は一人だけでしょうね。ただ、私もあなたも神をも恐れぬ破壊に従事した身ですので、今更と言えば今更ですかね。」

ふーんと、クイックが納得したのかなんなのか分からない唸り声をあげる。しばらくそうやって唸っていると、いきなり吹っ切れたように大きな声で宣誓した。

「じゃあ、俺はターボとフラッシュを幸せにすることを俺に誓う!」

するりと腕を放しドレスの裾を美しくひるがえしながら、クイックは来客に向き直った。そして、片手を突き上げると笑顔でさらに続ける。

「てことで、お前ら証人な?」

これって、付き合わされてる奴らとしてはいいのろけなのではないだろうか?恐る恐る振り返ると、全体的にぽかーんとしていた。一部笑いをこらえている奴らが、手を叩きだした。それがいつの間にか会場全体からの会場全体からの拍手に変わっていた。

 

 

 

「お兄ちゃん的にはターボマンは卒業みたいなどっきりになる筈だったんだが…これはこれで有りかねぇ。」

 

「エアーが憤死しそうになってたけどね。」

 

 

メタルとバブルは家路を肩を並べて歩く。

 

「おや。まだ3時だ。」

 

 

「朝からやったからねぇ」

 

「ふむ、じゃぁイギリス式に午後だから嘘が本当になったと言うことで。」

 

「今回はいいんじゃない、そういう事で。」

 

メタルはするりとバブルの手に自分の手を絡めた。

 

「ところで私達の式はいつにする?」

 

「錆びろ丸ノコ。」


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