今回はメタル、フラッシュ、ジョー、ちょっとクイックがでてきます。
るんるんと鼻唄を歌いながら、メタルが裁縫道具や綺麗な布を紙袋に入れていく。談話室には俺とメタルしかいないので、突っ込みたかったがさばききれる自信がないので放置している。しばらく無視して新聞を読んでいると、談話室の扉が開いて誰かが入ってきた。目をやると、見慣れたモノアイカメラのジョーだった。俺にカメラのピントを合わせると、踵を鳴らして敬礼する。手をふってそれに応えると、敬礼の手をおろした。
「フラッシュのジョーは相変わらず礼儀正しいな。」
メタルに向き直って一礼するジョーを、メタルは笑顔で手招いた。てこてことメタルの元へ歩いて行くジョーに、俺は首をかしげたくなる。メタルからうちのジョーに、俺を通さないで何の用だろうか?
「うちのに何させんだよ?」
なんだか、信頼している部下に秘密を持たれているみたいで、嫌だ。
「花嫁衣装をつくるんだ。」
は?口に出すのを忘れてしまった。
「は?お前の?」
「運命の一人に巡り会えたら、結婚も悪くないな。」
真面目な顔でうなずきながら、メタルは答えた。とりあえず、元々おかしいメタルが本格的にぶっ壊れたのではないことに安堵する。
「じゃあ、誰がって…えっ!?」
おとなしく俺らの話を聞いていたジョーが、俺の驚愕の視線を受けて顔をそらした。恥ずかしそうとも、気まずそうともとれるその行動に、よぎった疑問の答えを見た気がする。
「もしかして、お前、か?」
変にぶつ切りになった言葉に、ジョーがこくんとうなずく。
「聞いてない…」
相手は誰だ?何で相談してくれなかった。花嫁ってお前が?挙式いつだし。言いたいことが、たくさんありすぎる。それ以上に、胸中には複雑な思いが渦巻いていた。
「すいません、あの…」
「…相手は?」
今の俺はよほど恐いのか、ジョーが半歩下がった。そして、フリーズしてしまったように動かなくかる。沈黙がたちこめる談話室。俺が再度口を開こうとしたとき、談話室の扉が開いた。だが、誰かが入って来るのは見えなかった。わずかに、赤い残像がアイカメラに焼きつく。
「お前かっ?!俺んとこのジョーと結婚すんの!」
あっと言う間もなく、ジョーの横にたったクイックは、嬉しそうにジョーを抱き上げた。俺の腰よりちょい高いくらいの淡いオレンジの機体が宙に浮く。
「クイックのところのジョーが相手なのかっ!?」
仲良さげに話しているのは何度も見ているが、何で結婚なんだ?おかしいだろ!
「なんだお前知らなかったのか?」
ジョーを床に下ろしてクイックが不思議そうに俺を見た。
「みんな知ってるぞ。」
「みんなって、誰だよ?」
なんだか嫌な予感がする。
「とりあえず、ニボスはみんな知ってる。」
だめだ、根暗モードに入りそうだ。
「日取りは?」
うじうじしないように、気をとり直すつもりでそう聞いた。メタルがそんな俺の内心を見透かすように、意地の悪そうな笑みをうかべて答える。
「4月1日だ」
「…そういうことかよ」
主旨がわかってしまえば、アホらしいことこのうえない。メタルが残念そうにため息をついた。
「一人バカが減ってしまったが、まぁ当日が楽しみだな」
どうせメタルのことだから、下の奴らも巻き込むつもりなのだろう。
「あ、隊長…」
「メタルに命令されちゃ、ことわれないよな」
不安気に口をはさんできたジョーに、気にするなと言ってやる。
「申し訳ありません」
ぺこんと頭を下げて、ジョーが謝る。板挟みで苦しんだジョーをそれ以上苦しめる気はないから、気にするなともう一度言ってやった。ジョーはまだ申し訳なさそうな顔をして、ありがとうございますと呟いた。